コヴェナント 約束の救出
ガイ・リッチー監督の過去作「オペレーション・フォーチュン」でもふれたと思うんですが、どうも製作会社「ミラマックス」で作った「ジェントルメン」以降、彼の良さが全く感じない作品ばかりが続いてたんですよね。
これまで通り紳士的な振る舞いや男臭さがあるキャラは残っているものの、キレのいい編集、映画全体に溢れるやんちゃな感じが薄れていて、どうも面白みに欠けてるなぁと。
そりゃ監督だって加齢とともに映画製作の向け方や描き方ってのは変化するでしょうから、この作風を「フェイズ2」と捉えるしかないと思ってますが、それでもなんか悔しい。
しかし今回鑑賞する作品、これまでのガイ・リッチーっぽさがみえないにもかかわらず評判がいい。
しかも彼がこれまで挑んでこなかった「社会派」の面もあるということで、非常に楽しみにしております。(あとミラマックス製作じゃない…)
なんでも、「アフガニスタン紛争」を舞台にした約束と絆の物語だそう。
やば、男臭そう…(褒めてます)
早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
『スナッチ』『コードネーム U.N.C.L.E.』など痛快なアクション・エンターテインメントを世に送り出し大ヒットを記録してきたガイ・リッチー監督が、リアルな緊迫感に満ちた、キャリア初の壮大な社会派ヒューマンドラマに挑む。
現在は撤退したが、イスラム武装勢力タリバンの反攻を受け、アメリカが苦戦してた2018年のアフガニスタンを舞台に、米軍の総長とアフガン人通訳が互いの命を賭けて助け合うという尊厳をかけた約束【コヴェナント】を描く社会派ヒューマンサスペンス。
現在進行形で続いている“アフガニスタン問題とアフガン人通訳についてのドキュメンタリー”を観たリッチー監督が、その驚愕のエピソードを基にフィクションとして完成させた。
主人公には、『ブロークバック・マウンテン』でアカデミー賞に、『ナイトクローラー』でゴールデン・グローブ賞にノミネートされ、「アンビュランス」での熱演も記憶に新しいジェイク・ギレンホール。
アフガン人通訳の役にはTVシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」のダール・サリム。
そのほか、「ザ・ボーイズ」でメインキャスト“ホームランダー”役を演じているアントニー・スターや、『トレインスポッティング』の“シック・ボーイ”役で知られるジョニー・リー・ミラー、『リトル・ジョー』で第72回カンヌ国際映画祭・主演女優賞に輝いたエミリー・ビーチャム、『ウィッチマウンテン/地図から消された山』のアレクサンダー・ルドウィグらが脇を固める。
今も日に日に恐ろしいことが起きているこの世界にも、まだ人の美しくも強いく精神と行動力が残っていることを、この映画は教えてくれるだろう。
あらすじ
2018年、アフガニスタン。
タリバンの武器や爆弾の隠し場所を探す部隊を率いる米軍のジョン・キンリー曹長(ジェイク・ギレンホール)は、アフガン人通訳として非常に優秀だが簡単には人の指図を受けないアーメッド(ダール・サリム)を雇う。
通訳には報酬としてアメリカへの移住ビザが約束されていた。部隊は爆発物製工場を突き止めるが、タリバンの司令官に大量の兵を送り込まれ、キンリーとアーメッド以外は全員殺される。
キンリーも腕と足に銃弾を受け瀕死の状態となるが、身を潜めていたアーメッドに救出される。
アーメッドはキンリーを運びながら、ひたすら山の中を100キロ進み続け、遂に米軍の偵察隊に遭遇する。
7週間後、回復したキンリーは妻子の待つアメリカへ帰るが、アーメッドと家族の渡米が叶わないばかりか、タリバンに狙われ行方不明だと知って愕然とする。
アーメッドを助けると決意したキンリーは、自力でアフガニスタンへ戻る——。(HPより抜粋)
感想
#コヴェナント約束の救出 観賞。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) February 24, 2024
やっぱよー、借りはーちゃんと返すってのが男どーしのー約束っちゅーもんよ、そうだよなぁジェイク。
それなのにー大国ときたらよー、保留ときたもんだ。
おいらー頭にきたよ。
でもよー、個々の人間はーそうじゃねえってことなんだよなー。
沁みたぜー… pic.twitter.com/xenyhGqAFk
曹長と通訳の肩書を超えた「約束」という絆の物語に仁義を感じた1作。
男臭さと爆薬が充満しただけでなく、しっかり彼の見事な編集も感じた、価値ある作品でした。
以下、ネタバレします。
男同士の約束
アメリカ同時多発テロの首謀者であるビンラディンを匿っているとして始まったアフガニスタン侵攻。
ビンラディン引き渡しをタリバン政権に要求したものの、これを拒否。
武力行使を開始していくことに。
20年もの間多くの兵士を派遣したことでタリバン政権は崩壊したものの、各地でゲリラ戦が激化、紛争状態長期化が原因で、2021年米軍撤退によりタリバンは再び政権を取り戻したとのこと。
本作はその侵攻の最中、アメリカへの移住ビザを求めたアフガン人通訳が、米軍撤退した今も尚身を潜めている状態を知らせる中、個人と個人が「命を救う」約束だけを最優先し行動していく姿を描いた、人間同士の尊厳と仁義を映し出した物語でした。
決してたくさん見ているわけではありませんが、ヤクザ映画を好む傾向があります。
仁義なき戦いなどの東映系から、アメリカのギャングやマフィア映画など、表面的には非合法な裏社会で鎬を削る姿、またはそれによる裏切りなどを描いてはいますが、基本的には義理や人情を重んじる美しい部分に惹かれるのが主な要因です。
最近ではアウトレイジがヒットしましたが、あれだって昔から受け継がれてきた義理や人情を欠く者たちに啖呵を発するから大友に惹かれていくわけで、そうした美徳があるから面白いのではないかと思うんですね。
で、本作の話に戻りますと、移住したいがために麻薬取引などの汚い道から通訳という正しい道へと戻り命がけで上官を救う姿、そんな彼から救ってくれた恩に対し果たすべき使命があるのではないかと自問自答する姿を見せることで、国境や人種、立場の違う関係性、そうしたモノを除外して、人間と人間が本来あるべき姿を見せつける美しさを秘めた作品だと感じました。
劇中での通訳アーメッドは、ジェイク演じるキンリ―が感じたように、普通の奴よりも少々扱いづらい性格を持った人間でした。
命令通りに動かない、自分の信念に基づいて行動するあまり輪を乱す傾向にある。
それが隊のためであることを理解するのに、キンリ―は少々戸惑いながらも受け入れていく姿が印象的でした。
きっとキンリ―自身、地元ならではの土地勘や裏側まで精通していない立場故に、アーメッドを信じるのに苦労しただけのように思えます。
もし精通しているのなら彼を信じて行動するのが筋ってもんですが、階級も立場も下ですから上の判断が絶対なわけですし、駒でもある。
だから言う通りに動いてくれる方が融通が利くわけですよ。
だけどアーメッドは自分の判断は正しいと確信を持っているため、自分の本意で通訳してしまうことが多々あり、それが隊の命にかかわることにもつながるし、上下関係に響く恐れがあると。
そんな中、アーメッドの読み通り、探している武器庫がなかったりタリバンの罠にはまりそうになったりと、彼の通訳や土地勘が的中していくことで、キンリーがアーメッドを信じていく展開が前半では描かれてました。
本作が面白いのは、込み入った話をしながら関係を深めていくバディムービー的要素を削ぎ、「命を救う」ことに特化したことではないかと思ってます。
劇中、ある人物から情報を聞き出すため拉致した際、命令に背いた行為をしたアーメッドを快く思わなかったキンリ―が、別の部下からアーメッドの過去を聞くんですね。
すると彼は、かつて麻薬取引をしていたが、息子を殺されたことでアメリカ側の通訳として任務に就いていることを知るんです。
アーメッドが勤務中、その連中に家族を殺されてもおかしくないのに。
拉致した人物からも、キンリ―は聞き取れていませんでしたが、明らかにアーメッドの所在を知ってる人物で、脅迫をされていました。
よくある映画なら、込み入った話を聞いた代わり自分の苦悩などを明かすことで関係性が深まっていくパターンを見かけますが、本作の場合、命を救うために払った犠牲、それによる対価が見合ってないことでこみ上げる怒りと行動というシンプルな構造で成り立った物語だったように思えます。
敵に襲われ必死に逃亡しても、瀕死の状態の中120キロの道のりを歩んでも、家を担保にしてまで現地へ赴き、指名手配されてる危険を冒してでも彼を救いたいという思い。
やっとのことでたどり着いても、沢山の言葉を交わすことなく信頼と絆。
もしかしたら本当の絆とは「約束」で固くなっていくものなのかもしれない、そんな風にも思わせてくれる作品だったのではないかと思います。
ガイ・リッチー節がちゃんとあった。
冒頭でも語った通り、ここ最近のガイ・リッチー作品にあまりいい傾向が見られないと苦言を呈していた僕ですが、本作は違いました。
もちろん彼の全盛期と比べると、しっかりある尺の中で重厚感あるアクションになっていたんですよね。
その辺はここ最近の過去作のような雰囲気を醸し出していましたが、その中にもちゃんと「男臭さ」と「激しい爆破」、そして「テンポのいい編集」が存在していました。
男臭さに関して言及すると、アーメッドが傷だらけのキンリ―を手押し車で押すシーンが印象的です。
一山超えるには上り坂を登り切らなくてはならず、手押し車だとちょっとした石を乗り越えるだけでも一苦労。
しかもかなりの道のりを歩いたせいで体力もなく、灼熱のため体の水分まで奪われており、いつものパフォーマンスが出せない状態。
それでも、キンリ―を故郷に帰す一心で、自らを奮い立たせ気合を入れて叫びながら手押し車を思いっきり押すアーメッドの男臭さをしっかり映し出していましたね。
このシーンの手前、一度遠くを見つめながら息を切らして座り込むアーメッドの姿を横から映していたんですが、この時のいっぱいいっぱいな表情たらたまらない。
汗がめちゃめちゃ垂れ流されてる中、限界まで達しているかのような疲労感。
しかもめちゃめちゃ献身的じゃないですか。
リンゴを食べさせたり、痛み止めでアヘンを吸わせたり、水も飲ませたり、手当だって怠らない。
道のりは長いし、狙われてもいるから近道もできない。
それでも彼を救いたい。
そうした描写を重ねた後に、あの疲労困憊の表情ですよ。
気付いたら、「諦めんな!!あとちょっとだ!!」って応援してましたからw
そして今度は無事助かったキンリ―の番。
重傷を負った期間何も覚えてないキンリ―が、アーメッドの移住ビザが申請されてないことを知り、夜毎魘されていく。
自分は助かって、彼は野放しって、いつからアメリカは上辺だけの約束しかしなくなったんだ・・・
嘆きはやがて怒りへと変わり、自分の力の無さへと発展。
結果、上官に「借りを返せ」といちゃもん付けて現地へ直行。
民間の警備会社の人間との交渉も怒り心頭な様子。
アーメッドの弟とコンタクトを取り、タリバンの包囲網を何とか抜けながらアーメッドのいる場所へ向かうのであります。
現地のビザを取得するために家を担保にしてまで救いたいと願うキンリ―の姿は最高でしたが、もっと最高なのは色んな所に片っ端から電話をかけまくり、たらい回しにされたり保留にされぽっぱなしにされることでブチ切れるジェイクの安定の暴れっぷり。
リッチーはきっとこのシーンを最大限に魅了してくれるのは彼しかいないと思ったから抜擢したに違いありませんw
そんな激昂した後に上官室に呼ばれた時のジェイクの目、あれは怒りが頂点に達した時に見る「死んだ目」ですよw
8年前に上官を救ったんだから、その借りを今返して欲しい、てか、できるよなそれくらい、あんたは俺と似たタイプだからやるもんな、それくらい。
と、もはや頼みごとではなく、脅迫とも取れる言い方。
そして仮に「いやそれはできない」と上官が言ったら、果たしてキンリ―は何をしでかすかわからないほど、静かなオーラを纏っていたというか。
俺には見えましたよ、赤いオーラがw
このように、全く違う一人芝居から、感情むき出しの男臭さと、内なる炎を燃やす男臭さの対比が見られた作品でもありました。
他にもアーメッドがキンリ―を運ぶ道中をダイジェスト的編集で見せてるんですけど、あそこも良いテンポで見せてましたね~。
ああいうのがガイリッチーだなって感じました。
「キング・アーサー」って映画がありましたけど、あの時にかかってた音楽と同じような曲調のBGMに乗せて見せてたってのもあってか、「コツコツやっていく」アーメッドの姿として捉えていて、良かったですね。
そして激しい空爆や銃撃戦ですよ。
ワンカットで緊張感を高めていくシーンもあれば、様々なカットで激しさを体感させるなど、いろんな形でガンアクションを見せてくれましたね。
クライマックスのダムでの空爆はすごかった!
民間の警備会社が契約を交わした人物がジョン・キンリ―だと知って、米軍基地に軍用機をチャーター、キンリ―達を捕えようとするタリバン一行を空中から一掃する破壊力満載の爆撃でした。
多分あまりCG使ってないように見えたんですけど、やっぱ本物の迫力は違うなと思いました。
・・・CGだったらどうしよw
最後に
個々でしっかり約束は果たすのに、国レベルになると約束を守れない。
そんな約束ってなんですか?と疑問を投げかける本作。
マジでね、ヤバいことすんなて言ってないの、ダセえことすんなって言ってんのって話ですよ。
口約束なら最初からするなって話で、今後未だ隠れて生活しているアフガン人通訳たちにもビザを発行してくれるんでしょうか。
もう撤退したからその話は終わったってことですか?うわ、だっさ。
こういう大国の罪を見せておきながらも、大国の力ってのは凄まじいっていう軍用機の空爆シーンもあるから、なんとも言えない気持ちにさせる映画でもありましたね。
監督には、あと何作かこういう社会派にウェットな要素を乗せた作品をやってほしいというほど素晴らしかったと思います。
でも、ロック、ストック~のような労働者階級のやんちゃ映画が一番見たいです!!
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10